【人間国宝 平良敏子】氏率いる平良家の方々の手によって、丁寧に織り上げられたお品、<喜如嘉の芭蕉布>九寸帯のご紹介です。
琉球の美しい風と、やさしい大地に育まれて生まれた織物、芭蕉布。
「芭蕉布」とは、沖縄手織りの中でも最古の1つと言われており、その名の通り植物の糸芭蕉を原料として織り上げられた布です。
亜熱帯から熱帯地方に生育しますが、適度な寒暖があり、細かい繊維がとれる、奄美・沖縄の糸芭蕉が最も良いとされています。
芭蕉布の大きな特徴は、麻より繊維が堅いため軽く張りがあり風通しが非常に良く、衣類が肌にまとわり付くこと無く、一層さらりとした肌触りがあることです。
猛暑で夏の長い、亜熱帯気候の沖縄に最適な織物として、王族から農民にいたるまで夏の衣類として広く愛用されていました。
また近世から第二次大戦まで、農村では屋敷の裏庭や畑に糸芭蕉を栽培し、自給自足の生産体制が続いておりました。
しかし、かの大戦によって芭蕉布は造る人も材料も廃れてしまい、途絶える寸前になってしまいました。その芭蕉布を復興させ、伝統の技術と美を今に伝えてくださったのが、今回ご紹介するお品を製作した平良敏子氏です。
柳宗悦の『芭蕉布物語』に感銘を受けた平良氏は、倉敷で大原総一郎・外村吉之介両氏に激励されながら、倉敷で学んだ織りの知識を活かし、さまざまな技術改良を加えて、芭蕉布を「重要無形文化財」にまで復興させました。
一枚の芭蕉布ができあがるまでには、気が遠くなるほどの工程を経なければなりません。
それは、糸芭蕉の原木を栽培することから始まります。
野生のものでは硬くて使用できないので、繊維を柔らかくするための工夫をしながら育てるのです。
一反を織り上げるのに、約二百本の糸芭蕉が必要と言われます。
そこから、皮を剥ぎ、木灰汁で煮、しごいて不純物を取り除き、水に浸し、用途に合わせた細さに裂き、結び繋げる…これでようやく糸ができます。
簡単なようですが、大変な労力と時間が必要で、重要な工程です。それから撚りをかけ、整経。
染色用や絣用でそれぞれ異なる処理をし、やっと織る作業へと入ります。
乾燥に弱い芭蕉が切れないように、絶えず湿気を与えながら織ります。
5、6月の梅雨の時期が最適だそうです。
最後に織り上がった反を木灰汁で炊き、洗濯をして仕上げます。
ここまでしてやっと一枚の布が織り上がるのですから、芭蕉布の希少性をわかって頂けるのではないでしょうか。
その手触りは例えようがございません。
心地良いシャリ感に、自然の恵みを感じる節の感触…
まさしく命を織り込んだ至極の布といえるでしょう。