日別: 2016年7月4日

越後上布着尺 重要無形文化財 【故:鈴木苧紡庵】

織物通の夏の憧れ…越後上布。
その希少性は、ご説明申し上げるまでもないことでしょう。

1955年に小千谷縮とともに国の重要無形文化財第一号に指定された越後上布。
その第一人者として永く伝統を守り、2008年にその実り多き人生に幕を下ろされた、【鈴木苧紡庵】氏の手による、大変稀少な越後上布着尺のご紹介です。

氏は、越後上布の伝統を守る一方で、絣の紬の製作にも意欲的に取り組み、ご自身の名「苧紡庵紬」として美しい彩りの作品を残されました。

重要無形文化財に指定される越後上布には、以下が定義付られております。

1、すべて苧麻を手績みした糸を使用すること。
2、絣模様を付ける場合は、手くびりによること。
3、いざり機で織ること。
4、しぼとりをする場合は、湯もみ、足ぶみによること。
5、さらしは、雪ざらしによること。

すべての条件をクリアしたまさに最高級、重要無形文化財指定技術使用の一品。
中でも格子や縞、無地よりも工程が多く、絣合わせを施した逸品でございます。

越後上布の素材である糸は、まず苧殻を抜き、上布の原料となる皮の肉質をそぎ落として繊維だけを取り、それを爪と指先で裂いてより合わせてつくる繊細な糸です。
お着物でしたら、約一反分の糸を績むのに3ヶ月はかかると言われております。

手績みの麻は、繊細な性質上、昔ながらの居座り機で丹念に織り上げられます。
糸が細くなればなるほど乾燥に弱くなるため、暖房のほとんどない場所で作業は進み、雪の湿気だけが糸を守ります。
それを極寒の雪水ですすいで、糊を落として足踏みが済むと…
3月の陽気の良い日に、ご存知、雪上の雪晒しとなるのです。

越後上布は、出来上がるまでに気の遠くなるような時間と手間がかかります。

歴史は非常に古く、1200年前の奈良時代・天平年間に織られた麻布が、今もなお、正倉院の宝物として保存されています。

また、【鈴木苧紡庵】氏の作品も東京美術館や産地の資料館などに展示され、今では市場に出回ること自体が奇跡のような一枚です。

2016年 7月4日  カテゴリー:きょうの逸品